僕が新卒で入社した大手メーカーを退職したのは、働き始めてちょうど1年半というタイミングでのことでした。一部では若者の早期退職が問題視される傾向にもある今、まさにその流れに乗っかってしまった格好。乗るしかない、このビッグウェーブに。
思い返してみると、大学生時代に体験した「就職活動」それ自体も、さながら大波のようなもののだったと感じます。なんとか内定を得てたどり着いた道行きも、入社して働き始めてみれば、ただただ苦痛でしかない肉体労働をこなすだけの、酷道を歩く日々。
結果、流れ流された先にあったのは、「退職」の2文字でした。
「とりあえず3年」は勤めるべしと叫ばれる現在、たったの1年半で逃げ出した自分が、偉そうに何かを語れる立場にあるとは考えていません。ですが他方では、退職後のニート期間中に自分のブログで書いた経験談が多くの人に読まれ、メールや対面で相談を受けることが今でもあります。
相手は、入社後1〜2年で仕事を辞めようかと悩んでいる人たち。その話を面と向かって聞いてみると、いくつかの共通した悩みがあることがわかりました。それは、僕自身が在職中に悩んでいたことでもあります。しかし同時に、残念ながら明確な「正解」がない悩みでもありました。
本記事では、主に入社3年以内で辞めることを考えている20代の方に向けて、いくつかの考え方を示せればと考えております。あくまで早期退職者でもある一個人の意見に過ぎませんので、あしからず。
「とりあえず3年」はがんばるべき?
大学時代の就職活動に始まり、入社後は上司や先輩からも言われるようになる言葉として、「とりあえず3年」という枕詞がございます。……いや、実際のところは一部で叫ばれているだけかもしれませんが、少なくとも自分と自分のまわりでは共通して語られていたので。
要するに、「とりあえず3年は会社を辞めるべきではない」「3年間は我慢してでも会社に縋りついたほうがいい」「入社後の3年間で自分の方向を見定めよ」といった主張ですね。
この言葉は実際に「3年」を乗り越えた先輩方から発せられるものであり、言わば“先人の知恵”。大学の就職課の担当者、入社した企業の社長、さらには会社の身近な先輩までもが等しく「とり3」を繰り返すので、まるでそれが社会の常識であるかのようにも感じられます。
石の上にも三年。商い三年。桃栗三年柿八年。ぽつぽつ三年波八年。――数多くの故事・ことわざが示すことからも、「3年」にはある程度の妥当性があると考えられます。もうずっと昔から、多くの人が経験則でそう語ってきたために、その説得力は折り紙つき。これは信頼できる。
ところがどっこい。厚生労働省の調査を見ると、新卒者の3年以内離職率は、3年連続で30%超え。そもそも平成7年以降、ほぼずっと3割以上を推移しており、決して彼らが「少数派」だとは言えない現状にあります。3年以内に辞めない70%を「マジョリティ」あるいは「常識」と括ることができるかどうかは……判断に悩むところですね。
こういったデータを見るかぎりでは、「3年以内に辞めるヤツはけしからん」という主張は必ずしも大多数のものだとは言えず、その人自身の個人的な意見と言っても差し支えのないものなのではないでしょうか。そういう人もいるよね、くらいの感じ。
どうして「とりあえず3年」なの?
この「とりあえず3年」という主張は、いったいどのような考えからくるものなのでしょうか。よく耳にする回答としては、大別すると次の2つの意見が挙げられそうです。
- 「3年は同じ会社で働かないと、転職で不利になる」
- 「一定期間は勤めないと、その仕事の魅力も楽しさもわからない」
うーん、どうでしょうか。ひとつずつ考えてみます。
「3年は同じ会社で働かないと、転職で不利になる」
こちらは、転職市場ではそれこそ「常識」とも言える通説なのではないかと思います。採用担当者が履歴書を見た際に前職の在職期間が短いと、「採用してもすぐに辞めるんじゃないか」と懸念を示すのは自然なこと。早期退職のリスクを避けるべく、採用を見送るケースもありえるでしょう。
しかしこれは見方を変えると、「3年以内退職」がもたらすデメリットは「面接官の猜疑心」に過ぎない、とも言えなくもありません。つまり、もしその疑念を晴らすだけの「辞める理由」があるのならば、無理に3年も勤めあげる必要はないと考えられるのではないでしょうか。
「ありえないレベルのサービス残業を強いられた」とか、「肉体的あるいは精神的に追い込まれるほどの勤務形態・職場環境が常態化している企業だった」とか。
我慢ならない「問題」が会社にあると感じ、その対策を進言したにも関わらず何も改善されなかった。そういうことでしたら、それだけで会社を辞めるだけの正当な理由になりうると、僕は思います。
「一定期間は勤めないと、その仕事の魅力も楽しさもわからない」
では、もう一方の主張はどうでしょうか。言い方を変えると、「3年は続ければ仕事のやりがいを感じられるようになる(はずだ)ぜ!」という意見。4年目以上の先輩・上司がそのように話すのであれば、確かにそれは説得力を持つ言葉であるようにも感じますね。
ですが、身も蓋もない言い方をしてしまえば、これは結果論でしかありません。「その先輩がたまたまその仕事・企業と合っていたからこそ楽しめている4年目がある」というものでしかなく、入社した誰もがそれに追随できるとは限らないのが現実です。だからこそ、「合わない」と感じて早々に辞める新入社員もいるのでしょう。
もちろん最初は嫌々だったとしても、慣れることで楽しくなってくる仕事は往々にしてあります。その可能性が少なからずあると言うのなら、また「楽しさ」を語る先輩の言葉に少なからず共感できる部分があるのでしたら、信じて「3年」は勤め続けるのも選択肢のひとつだと思います。
基準としては、「とりあえず3年」を乗り越えた4年目の先輩が参考になりそうです。彼・彼女が新入社員当時はどういった心持ちで、3年間でどのような経験をし、心境の変化があり、4年目の今をどのように楽しめているか、あるいは楽しめていないか。どちらを選んだ結果がどうなるかは誰にもわからないので、そこは自分で考え、周囲に相談し、決断するしかありません。
自分にとっての「3年」と、その先の「5年」「10年」を考える
「3年」という数字は誰にも等しく過ぎ去る時間のようでいて、実のところは各々に価値の異なる数字・期間なのではないかと思います。同期入社組の中に、1年で辞める人がいて、2年で出世する人がいて、3年経ってもずっと同じ仕事を続けている人がいるように。
実際のところ、仕事を覚えるまでの時間も人によって異なります。1年目にしてバリバリ働くことのできる早熟タイプがいれば、5年経って大きな結果を出し始める遅咲きのタイプもいるでしょう。かと言って社内でずっと同じ仕事を続けられるとは限らず、やりがいを知る前に異動・転勤するようなことがあってもおかしくはありません。
そもそもの前提として、その人と仕事(あるいは会社)との相性が絶望的に悪ければ、何十年続けたところで「魅力」を感じることはできないのではないでしょうか。続けるためには、仕事は仕事として割り切るか、無理に「楽しい」と思い込むことで前向きに捉えるか、いずれかの考え方に移行せざるをえないように思います(それこそが勤労の「王道」「常識」だと話す人もいます)。
ああだこうだと「とりあえず3年」に対して懐疑的な視点から書いてきましたが、結局のところは冒頭の答えに戻ります。人も会社も仕事もそれぞれに異なり、しかも未来が見通せない以上は「明確な『正解』がない悩み」であり、最終的には「自分自身がどうしたいか」という思いに帰結します。
22歳に大学を卒業したとして、その3年後は20代後半に差し掛かろうかという時期。一般的にはまだまだやり直しのきく年齢とされていますし、その3年間で得られる経験もあるはず。業務上の知識や技術はもちろんのこと、人脈や貯金といったものも手に入るかもしれません。
しかし他方では、ただ漫然と3年間を費やし過ごした結果、何も得られず、その会社に染まりきり、転職する意欲すら持てなくなってしまっては元も子もありません。数年間をかけて獲得したスキルが、実はその会社でしか通用しないものだった――という話も、たびたび耳にするものです。
退職を悩んだときの考え方として僕がおすすめしたいのは、次の2点です。「将来の選択肢を狭めるくらいなら、辞めてしまったほうがいい」ということ。そして「基本戦略は『いのちをだいじに』で立ちまわるべき」ということ。
組織に属して労働に従事するということは、その企業のために働くこととイコールです。採用時に締結された労働契約の下、企業から求められる働きを自身が発揮・提供することで、その対価としてお給料をいただく形。……ですが、言ってしまえば「それだけ」でしかありません。
自分が働くのは、(突き詰めれば)自分のためです。自分に利益があるからこそ働くのであり、それが見合わないと感じるのであれば、無理して続けることはありません。契約以上の労働を求められ、身体や精神を壊すほどに酷使されるなど言語道断。そこで「3年間は耐えろ」と押し付けられたとしても、言葉どおりに従う必要は皆無でしょう。
「3年」はあくまで通説としてある基準のひとつでしかなく、絶対的なものではありません。1年後、3年後、5年後、10年後の自分がどうなっているか、どうしたいかを考えて、現状と先の数年間で得られるだろうメリットの存在を考慮しつつ、自分の思う最適解を導き出せればベストだと言えるのではないでしょうか。……難しい話だとは思いますが。
安易な退職・転職はおすすめできませんし、無理に先人の知恵を蔑ろにする必要もないとは思います。先輩や同僚をはじめとする周囲の人間に問い、自分なりに考えて、納得できる「3年」の答えを導き出せるのなら、それに越したことはありません。ただ、決して無理はなさりませぬよう。
著者プロフィール
けいろー
フリーライター。平成元年生まれのインターネット大好きゆとり世代。大学卒業後、大手メーカーに入社するも1年半で退職。転職活動の最中、好き勝手に書き連ねていたブログ「ぐるりみち。」からお仕事の依頼をいただくようになり、1年間の無職期間を経て独立。フリーのライターとしてなんとか食いつないでいます。はやくにんげんになりたい。
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